永遠に求め続けるも、決して得られる事のない人間の性【国境の南 太陽の西】:村上 春樹

“僕”が抱く虚無感

都内で「ジャズを流す上品なバー」を経営する、絵に描いたように幸せな主人公の”僕”。

十分な財産を持ち、また妻子にも恵まれている。

そんな”僕”は傍から見ればすべてがうまく行っている。

しかし”僕”には言いようのない虚無感で満ちている。

バーでの仕事は、お酒とともに幻想を提供する。

上品な空想の創作に”僕”は虚無感を抱いていたのだ。

かつて好きだった「島本さん」との再会

そんなある時、僕が経営するバーにかつて好きだった「島本さん」が現われる。

彼女との幼少期の記憶――二人でこっそりレコードを聴いた日々、ささやかな幸せ。

そんな記憶が蘇ってくる。

「あまり幸せな時代とは言えなかったし、僕は満たされない思いを抱えて生きていた。僕はもっと若く、もっと飢えていて、もっと孤独だった。でも僕は本当に単純に、まるで研ぎ澄まされたように僕自身だった」

月光のように朧けな島本さん。

「たぶん」「しばらく」

――彼女の曖昧な言葉に、”僕”は翻弄されていく。

“僕”の喪失感は、島本さんの影を追うことによって満たされていくのだ。

逃避行のような描写は呼んでいてスリルを味わえる。

永遠に求め続けるも、決して得られる事のない人間の性

『国境の南 太陽の西』のタイトルは、”僕”が幼少期に島本さんと一緒に聴いたレコードのタイトルに由来している。

広い原野に住む人が「太陽の沈みゆく西に何があるのか」と思い立ち、ひたすら西に歩み続けるも永遠に果てることがない。

「国境の南」も同じく、そこに何があるのか目指すも、その想いは不毛である。

永遠に求め続けるも、決して得られる事のない人間の性が描かれている。

そんな不条理をカクテルやジャズが加速させていく。

今の僕という存在に何らかの意味を見いだそうとするなら、僕は力の及ぶかぎりその作業を続けていかなくてはならないだろう―たぶん。「ジャズを流す上品なバー」を経営する、絵に描いたように幸せな僕の前にかつて好きだった女性が現われて―。日常に潜む不安をみずみずしく描く話題作。
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