弁護士が書く、弁護士視点の犯罪小説
著者 フェルディナント・フォン・シーラッハ 本職は弁護士。ドイツ人。
1964年生まれで、同作は、本屋大賞2012年度の翻訳本部門を受賞していて本屋に並んでいるのを見て購入した。
ドイツでは大ベストセラー作品。
タイトルの『犯罪』通り、ドイツを舞台にした犯罪ドラマの短編集。
理由あって罪を犯した人々の数奇な人生の物語集。
一人の刑事弁護士が主人公で、彼からの視点で物語が進む。
ドキュメンタリータッチの短編を集めたオムニバス形式。
一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。
兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の息子。
彫像『棘を抜く少年』の棘に取り憑かれた博物館警備員。
エチオピアの寒村を豊かにした心やさしき銀行強盗。
魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。
本書の最大の魅力は、著者の弁護士としての豊富な経験に裏付けされた場面設定とノンフィクションか?って思わせるくらいリアルで、淡々と語る文章。
それでいて深みがあって、引き込まれる。
東野圭吾ミステリーのような、ドキドキ感はなく、大体思ったとおりに事件は進むし、解決される。
「これはリンゴではない」
主人公も活躍しないし、語り口も淡々としている。
ここが錯覚を起こさせる。
最後ページに「これはリンゴではない」とフランス語が。
これは?っておもいネットで調べる。
全編を通して、全てに何かしらリンゴが出てくるシーンがある。
特に印象を持たせる訳でもなく。
そして、最後の文章。 翻訳家のあとがきがネットに出ていた。
シュールレアリスムの画家ルネ・マグリットに、同名の絵がある。
リアルに本物らしくリンゴを描き、その画面中に「これはリンゴではない」の言葉を書き添えた絵、「これはリンゴである」という見る側と見られる側の暗黙の了解を身も蓋もない形で露わにした絵だ。
ヤラレタ!と思った。
この「犯罪」を読んで、どこかこの作品は「ノンフィクション」と思い込んでいた自分がいたからだ。
それほど巧妙に作られた作品で、本当におすすめです!
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