アリストテレスの『詩学』にまで遡るカタルシスとは何か!?

脚本術や評論など、ストーリーについて語られた文章の中には、カタルシスという言葉がよく出てきます。
感動的なストーリーに触れた際に味わう感情を指すということや、おぼろげなニュアンスだけなら皆さんも把握していることでしょう。
ですがこのカタルシスという用語は、そのような曖昧な捉え方で済ませてしまうには少しもったいないくらい、非常に含蓄に富んだものなのです。

アリストテレス『詩学』におけるカタルシス

ストーリー用語としてのカタルシスの歴史は極めて古く、アリストテレスの『詩学』にまで遡ります。
そこでは悲劇の効用として、怖れと憐れみを味わうことによって得られる心の浄化作用を指すものとして、カタルシスという言葉が使われています。
が、今日における用法をよく見てみると、それよりももっと広い意味で使われているように感じますし、浄化という表現は抽象的過ぎて腑に落ちません。
この用語をより理論的に把握するには、アリストテレスに比べれば遥かに新しい、ある学問の存在に着目する必要があります。

深層心理学におけるカタルシス

深層心理学という、人間の無意識を重視する心理学の学派において、このカタルシスという言葉はより広い意味で使われるようになりました。
あるヒステリー患者が、催眠と対話をとおして、忘れ去っていたイヤな記憶を意識化したことで症状が軽減。
これがカタルシスという言葉で表現されて以来、悲劇の観賞や怖れや憐れみといった限定が取り去られ、無意識に関わる心の浄化作用全般を指して、カタルシスという言葉が使われるようになりました。

今日におけるストーリー用語としてのカタルシス

このように、アリストテレスがストーリー用語として使ったカタルシスは、やがて深層心理学用語としても使われるようになりました。
そして今、ストーリー用語としてのカタルシスには、半ば暗黙の了解のように、深層心理学用語としてのカタルシスの持つ意味が含まれています。
つまり今日におけるストーリー用語としてのカタルシスとは、悲劇的なストーリーに限らず、また必ずしも怖れや憐れみを伴うものではなく、広く無意識に関わる心の浄化作用を指すものとなっています。

抑圧の解放に伴う快感

「無意識に関わる」という要点を押さえれば、浄化という抽象的で感覚的な表現を、比較的具体的で理論的な表現に置き換えることができるようになります。
無意識の働きで最もあらゆるストーリーとの親和性が高いものは、おそらく抑圧ではないでしょうか。
抑圧とは、ある感情や心理を抑え込む働きのことですが、極限まで単純化すれば、「こうしたいのにできない」という状況もまた抑圧と言えます。
「こうしたい」という欲求を、「できない」という事実によって抑え込んでいるという構図ですね。
このような構図は悲劇に限らず、目標達成型のストーリーやバトル物のストーリー、さらにはラブコメや歴史物等々、ほとんど全ての種類のストーリーに見られるものと言ってよいでしょう。
そしてこの抑圧された感情や心理、欲求が解放された瞬間、人は大きな喜びや幸福感を得ることができます。
今日におけるストーリー用語としてのカタルシスという言葉は、ほぼこのような「抑圧の解放に伴う快感」を指していると見てよいでしょう。

以上のことを念頭に置いて、今後ストーリーを観賞する際には抑圧と解放に着目したり、自分でストーリーを作る際には意識的に抑圧と解放を盛り込むようにすれば、あなたのストーリーセンスはめきめきと上達することでしょう。

後世のヨーロッパ文学,特にフランス演劇に大きな影響を与えたホラーティウスの『詩論』を併収.
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この記事を書いた人

カエルゼミ
ライトノベル作家を目指して小説を書きつつ、ノベルゲームやボイスドラマのシナリオも書いています。

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